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とるにたらない
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突然の腹痛に見舞われて、俺は手を止めた。

「……痛」

俺より他に誰もいない室内に、ほんの小さく弱音をこぼして。
できるだけ痛みを無視しながら、俺はまたパソコンに向かった。

じくじく。じくじく。

いたくない。
いたくない。
いたくない……


『我慢してたらもっと酷なるんやで、薫くん』


ぴたりと手が止まる。
この期に及んで脳裏に浮かぶその声に、呆れた苦笑しか洩らせなかった。

暫く迷った末、立ち上がる。
コップに白湯と痛み止めの薬。
ひといきに飲み干して、コップをかたんと置いた。


薬に頼ったらあかんような気がする、
痛みに強いわけでもないのにそう意地張って、挙句ごろごろと呻く羽目になった俺に向かってかけられた言葉がそれだった。
痛み止めを二錠と、あたたかい白湯を持って来て、少しでもいいから何か食べろと、俺の好きそうな菓子を持ってきて。
嬉しかった。なのに俺は、それに礼を言っただろうか。
あの優しさをいつしか、当たり前のものだと捉えていなかっただろうか。


ベッドに横たわって、眉をひそめながら目を閉じる。
おぼろに、夢を見た。



目を覚まして時計を見ればちょうど一時間が経とうとしていた。
腹の痛みは治まっている。薬が効いたに違いなかった。

「……腹痛は、薬で治るのにな」

おまえがいなくなってからいつも身内で感じている疼痛は、まるで効き目もなく存在し続けているよ。

俺の悪い癖だったんだ、おかしいと思ったら放っとかずにすぐ薬を飲むべきだった。
こんなにも大きく成長してしまえば、痛み止めなんかでどうにかなるわけもない、か。

それでも俺はひとりだから、これが逸らしようのない現実だから、じくじく痛む疼痛と向き合って過ごしていかなければならないのだ。

眠らせていたパソコンを起こして再び前に座る。
かたかたと指が震えるのを、俺はかなしい気持ちでただ見つめた。




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