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とるにたらない
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こちらもKD。
やっぱり力尽きて未完のまま。




「……こんなとこにいたの?堕威くん」

非常階段で煙草をふかしている堕威くんを見つけ、俺は溜息まじりにそう言った。

「おう、敏弥。何しとんねん」

「こっちのセリフだよ。黙って行方くらますの、やめたら?薫くんが捜しまわってたよ」

「ふーん」

「ふーんって」

さして興味もなさそうな返事。――否、本当は内心ひっそりとほくそ笑んでいるに違いなかった。
見ていれば、わかる。堕威くんは薫くんの関心を常に自分に向けていていたいのだ。
それで一見すればわけのわからない行動を取ってみせるが、本人にしてみればそれは筋の通ったこと。

「薫くんに同情するよ」

「あ?なんでや?」

眉を顰めて言ってみせる堕威くんに構わず、俺はポケットから煙草を取り出して火を点ける。
薫くんと一緒に居るようになってからは、大概堕威くんはこんな調子だ。
恐らく、その関係が本質的には“優位”などもないような対等なものだから。
だからこうして試すようなことをして、少しでもイニシアチブを取りたがる。
きっとそうでもしなければ不安なのだろう。言ってしまえば、先立つもののない関係だから、だ。
すべては憶測の範囲だけど、あながち間違ってもいないだろうと思う。

「何でもいいけどさ、やりすぎると呆れられるぜ」

「………」

堕威くんは少し不機嫌そうな顔をした。
口には出さなくても気にくわない、とそう思っているのがあまりに顕著だ。
……これだけわかりやすい顔をしていれば薫くんだってすぐわかるはず。それとも、こんなふうに表情をあらわすのは相手が俺だから、余計な気兼ねも必要ないということだろうか。

「しゃあないやろ」

ぽつりと、堕威くんは言う。

「俺は可愛ないし、柔らかないし、結婚もできひん子供も産まれへん、繋ぎとめるもんが何もないねんから」

「だから、不安なんだ」

「……まぁ、な」

「いつか捨てられる、って?薫くんが堕威くんのことじゃなくて現実を見始めたら、もう勝ち目がないって?」

「おまえも言うなぁ」

「でも、そう思ってんじゃねえの?」

否定の言葉はない。つまりそういうことだ。
俺は息を吐いた。

「ナイーブだよなぁ、堕威くんは」

「っさいな。おまえに言われたないわ」

「ひっで。確かに俺はネガティブだけど日々成長してるよ」

「ほんまかぁ?」

ようやく笑顔を見せてそう言う堕威くんに、俺も苦く笑みを返した。

「……堕威くんのいま言ってたことってさ、薫くんの気持ちを全否定してるのとおんなじなんじゃねえの?」

「!」

はっと息を呑んだ堕威くんの瞳に、傷ついたような色。

「堕威くんだって、薫くんが男だってわかってるのにつきあってるわけでしょ」

「それは……そう、やけど」

「薫くんだってさ、堕威くんが女じゃないってことは元から知ってんじゃん」

「やけど…っ」

「最初からわかってて、それでも堕威くんのことが好きなんだと思うけどな」

冷める冷めないを言えばそれは、普通の恋愛だって大差ない。
特別なことはないんだ。なにも。

「不安なんだって素直に言えば?言わなきゃ伝わんねぇよ」




……と、微妙なところで終わっておりますが。
このあと「だいちゃん!むっちゃ捜したんやで!」とかおるくんがやってくる予定でした。
敏弥はつい相談役にしてしまう。なぜだろう。
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