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とるにたらない
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触れた指先は微かな温もりだけ与えてすぐに去って行った。
口にはなかなか出せないが実のところ飴を望んでいる俺の唇に欲しいものを挟み込ませておきながら、あいつはいとも容易に裏切るから。

傘の無い濡れ鼠に情けを掛ける気にもなれなかった。
項垂れた背中は確かに憐れではあったがそれだけで、俺はちらとも同情心を見せずに水溜まりを蹴散らして歩いた。
その手からすべて失くしたあとでさえ俺を頼ろうともしない意固地さは憎らしく、同時に羨ましくもあった。
その強さを半分でも手に入れることができたなら、今頃。

自意識過剰な己に自嘲を溢しながら、これは完全なる敗北なのだと認めざるを得なかった。
背後で幽かに何かが聞こえたが、確かめる間もなく雨音に紛れて地面に消える。
振り返って勘違いだったら恥ずかしい。
俺は黙っていて、呼び声はついぞ聞こえることはなかった。


そういうことだ。
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